脳梗塞になって失った〝途方もなく大きなもの〟と新米身体障害者の〝自宅生活における課題〟【真柄弘継】連載第12回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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脳梗塞になって失った〝途方もなく大きなもの〟と新米身体障害者の〝自宅生活における課題〟【真柄弘継】連載第12回

【連載】脳梗塞で半身不随になった出版局長の「 社会復帰までの陽気なリハビリ日記」163日間〈第12回〉

 

◆脳梗塞になって失った「途方もなく大きなもの」とは?

 

■9月30日火曜日

タイムトライアル。

3分28秒。

 

脳梗塞を発症してからは少しのことで疲れが半端ない。

他の脳梗塞患者さんたちと話してみたら皆さん例外なく疲れやすかった。

ググッてみたら「脳梗塞になると疲労しやすくなる」と書いてある。リハビリで身体の機能は回復できても、疲れに対しては体力を増やしていくしかない。

脳梗塞の後遺症なのかわからないけど、私は眠りにつくのが難しい。

毎晩7時前後にはシーパップ(無呼吸症候群改善機器)を装着して眠る。

けれどどんなに疲れていてもそのままぐっすりとはならない。

30~40分で目が覚め、その後は眠ろうとしても短時間に寝たり起きたりを繰り返すのだ。

それでもだいたい午後11時~午前0時には眠りの間隔が延びて午前3時前後まで眠れる。

しかし午前4時頃には目が覚めるから、ルーティンである自主トレを始めて身体も目覚めさせるのだ。

目が覚めるのはトイレの場合もある。

頭の中がモヤモヤして目が覚める場合や、麻痺した身体を動かそうとして目が覚めたりもする。

私はこれを拷問と呼んでるけど、かなりしんどいものだ。

この先、生きている間はこんな睡眠しか出来ないのかと思うと不安になる。

月一の主治医との面談で聞いてみよう。

とにかく脳梗塞になってからの身体の変調は謎だらけなのである。

 

脳梗塞で失ったものを考えると、なんと途方もない大きなものを失ってしまったのだろう。

これまで当たり前だった日常は、もう二度と戻ってこない。

落ち込み期のなかった私でも、この現実を考えると「まいったなぁ」となる。

運のいいことに、私の思考はそこから「新しい日常をおくらなきゃな」となるだけで、落ち込みやふさぎ込みはないけれど。

 

このリハビリテーション病院の人事異動の季節なのか、看護師のT井さん、理学療法士のO本さんの二人が私の担当から外れた。

看護師はM上さん、理学療法士はO橋さんが新しく担当となってくれた。

組織に異動はつきものだから仕方がないことだけれど、作業療法士のA塚さん以外は皆変わってしまった。

 

今日から公道の歩行練習は病院の門を出て右側に行くコースから、左側へ行く上級者コースに変えてもらった。

こちらのコースは、まず坂道を下って行き、下りきってからしばらく平坦な道から再び上り坂となる。

帰りも同じように下ってから上っていく。足腰の筋肉を鍛えられるのだ。

トレーニングはより負荷をかけていかないとダメだから、敢えて左側へ変えてもらった。

二つ目は腕のリハビリ。

寝た姿勢で腕の上げ下ろし。

それだけのことなのにとても疲れる。

ここにきてようやく腕の筋肉が筋肉痛になってきたから、毎朝の筋トレの効果が出ているようだ。

 

昼ご飯の時にこんなことがあった。

おかずにかけるソースの小袋が開けられない老婆を、私の右隣に座るご婦人が手助けしようと立ち上がった。

すぐに介護士さんが来て「どうされました?」と声を掛ける。

手助けしようとしたご婦人はリハビリテーション病院の意味がわかっていないのだろう。

ここは患者同士が助け合いをする場所でない。

それぞれの人が日常へ戻るためのリハビリをする場所。

老婆は出来ないなら挙手して、介護士さんなり看護師さんを呼んで開けてもらえばいい。

それを考えるのがリハビリ。

ご婦人は自分で直接手伝うのではない。

老婆の声が小さくて介護士さんに届かないなら、代わりに呼んであげたらいい。

ご婦人は町中の食堂と同じようなことをする場所ではないことが理解できないのかもしれない。

食事についている小袋も、ヨーグルトのフタも、牛乳のストローも、病院を退院したあとは召し使いでもいない限り、自分でどうにかするしかないからリハビリテーション病院でリハビリをするのである。

 

それにしても本当に見た目だけではどんな障害があるのか分からない。

この親切なご婦人は足も手も、それこそ喋ることもなんら普通。

もしかしたら認知機能が低いからリハビリテーション病院にいるのかもしれない。

認知症というと多くの人が真っ先に思い浮かべるのが記憶障害ではないだろうか。

物忘れ、聞いたことを忘れる、何かをする手順を忘れる等々。

他にも見当識障害だと時間や場所が分からなくなる。

計画を立てたり整理したりが苦手な実行機能障害。

言葉がうまく出てこない言語障害などがある。

最初は本人も自覚するけど、それすら忘れてしまうらしく、実に厄介なことだ。

このような人たちと日々接する看護師さんや介護士さん、それにセラピストさんたちは大変な仕事をされているのだ。

 

午後の最初は足のリハビリ。

筋トレマシンから始めて、ストレッチをしたら駐車場での歩行練習。

久しぶりのセラピストさんだったから、杖無しで歩いていることに驚かれていた。

指のリハビリをメルツで指の開閉。

1日のリハビリスケジュールで指の、それもメルツを使ったリハビリは最後にしてもらうと非常に助かる。

なぜなら、脳が一番疲れるのがメルツだからだ。

終わった後は歩いたリハビリより疲れる。

だから朝一番でメルツだと、その後のリハビリで力が入らないから、最後だと嬉しいのだ。

17時には1日のリハビリが終了。

外界ではまだまだオンタイム。

リハビリテーション病院は疲れきった患者さんたちで溢れかえっている。

あとは18時の晩御飯を食べたら寝るだけだ。

次のページ薬は私の命をつなぐ大切な薬。飲み忘れなど言語道断

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真柄弘継

まがら ひろつぐ

現役出版局長

1966年丙午(ひのえうま)126日生まれ。

1988年(昭和63)に昭和最後の新卒として出版社に勤める。

以来、5つの出版社で販売、販売促進、編集、製作、広告の職務に従事して現在に至る。

出版一筋37年。業界の集まりでは様々な問題提起を行っている。

中でも書店問題では、町の本屋さんを守るため雑誌やネットなどのメディアで、いかにして紙の本の読者を増やすのか発信している。

 

2025年68日に脳梗塞を発症して半身不随の寝たきりとなる。

急性期病院16日間、回復期病院147日間、過酷なリハビリと自主トレーニング(103キロの体重が73キロに減量)で歩けるまで回復する。

入院期間の163日間はセラピスト、介護士、看護師、入院患者たちとの交流を日記に書き留めてきた。

自分自身が身体障害者となったことで、年間196万人の脳卒中患者たちや、その家族に向けてリハビリテーション病院の存在意義とリハビリの重要性を日記に書き記す。

また「転ばぬ先の杖」として、健康に過ごしている人たちへも、予防の大切さといざ脳卒中を発症した際の対処法を、リアルなリハビリの現場から当事者として警鐘を鳴らしている。

 

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